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last updated 1997/07/20

第66話(全130話)

神族(5/10)




 マリカは自分がずいぶんとマスターにつらく当たっていたように思った。
「本当に心があるの、マスター?」
 問われて、ピートはどう応えたらいいのか迷ってしまう。ピートという少年が憑依したので
あって、マスター自身に心が宿ったわけではないと、そう言っていいのだろうか? けれど、
もしかしたら機械に心が宿る、というのはこんなふうに誰か別の意識がそれに憑依する、とい
うことなのかもしれない。だとしたら、ぼくはマスターに宿った心なのだろう。
「また訊くまでもないことを質問してるのね、マリカさんは」
 女性のアーバムは苦笑しながら言った。
「答えはもうわかっているはずなのに、マスター自身にわざわざ確認しなきゃわからないの?
」「え」
 マリカは口を閉ざす。そして、フーッと長い息を吐き出してから、ちょこんと肩をすくめて
みせた。
「そうですね。訊くまでもないことですね。あたしはもう質問の答えを知っています。ただそ
れを認めようとしていなかっただけ」
 この旅をはじめた時にはもうすでに、マスターには心が宿っていることは感じ取っていたの
だ。だからこそ、百の質問を投げかけるマスターに、母親のような気持ちで答えを返していた
んだ。
 ティゼルの実の効用なのか、マリカもいま、とても素直に世界に対して自分をさらけ出して
いた。
「もう落ち着いたようじゃの」
 やりとりを黙って見守っていた長老が口を開く。
「きつい坂道を登り続けた疲れも、そろそろ癒えてきた頃じゃろう」
「はい」
 マリカはうなずく。ローガン・ベリーのお茶とティゼルの実が、彼女の疲れを癒し、心を清
めたのはそばで見ているだけでもわかった。
「ならば、問いに答えよう。何なりと訊くが良い」
「あのですね」と口を開いたのはパピロだった。「おいら、仲間からぜひともアーバムさんに
質問して来いって言われてるんですよ。つまりは仲間の代表ってわけなんです。おいら、こう
見えてもけっこう仲間からの信用が篤いらしくて、すぐ代表にされちゃうんです」
 信用が篤いのではなく、単にいちばんのお調子者だから、というのが理由なのは間違いない
。そう思う一同を無視して、パピロは続ける。
「で、頼まれちゃ仕方ないから、おいら、はるばるここまで旅してきたんです。マリカよりも
遠くから来てるんだから、質問はおいらが最初ってことでいいですよね、もちろん」
「いいとも。もちろん、きみが最初だ」
「すごいな。話のわかるお爺ちゃんだ」
 パピロはマリカとマスターにエヘンプイと胸を張ってみせた。いちばん最初に質問する栄誉
を与えられたことがよほど彼には自慢らしい。
「質問ってのはですね、じつはその、おいらの村の近くの海に・・」
 言おうとするパピロを長老は手を上げて制した。
「質問はひとつだけだと先刻言ったのだが、きみは聞いていなかったのかね?」
「聞いてましたよ。大切な質問をひとつだけって奴でしょ?」
「その通り。だからきみの質問はもう終わってる。私達は君の質問にもう答えたよ。いちばん
最初にね」
「へ?」
 そう言えば。とピートも気づいた。小屋に入ってきてすぐにパピロは質問をしたのだ。
「どうしてこの小屋は外から見るより、中で見るほうが広く感じられるの? って、あなたは
そう質問してたわ」とマリカ。
「へ?」
 パピロ、キョトンとなる。
「嘘。ぼくそんな質問した? してないよ。絶対してない」
〈してたよ。ぼく、ちゃんと聞いてたもん〉とフィンフィン。
「でも、あれは質問じゃないよ。ちょっと挨拶代わりっていうか、そんな感じだったじゃない
の。あんなの質問じゃないよ」
「私達は答えたよ。答えを覚えているかね?」
「もちろん覚えてますよ。空気の粒の大きさがどうのって話でしょ? でも、あの、あれは無
しです。あれはおいらのしたかった質問じゃないんだし」
「そうかね? じゃあ、他に何を訊きたいのだね」
「だからですね。おいらの森の近くの海に・・」
「グノートンが現れて何やら大声で吠えている、じゃろ?」
 言う長老にパピロは「え?」と目をパチクリさせる。
 長老は続ける。
「それで、普段はおとなしいグノートンがあんなふうに騒ぐからには、何か良くないことが起
こるのではないか、と森の仲間たちは不安になった。火山の爆発か津波か地震かと怖くてたま
らない。どうかパピロ、アーバムの所へ行って、グノートンが騒いでる理由を尋ねてこい。き
みはそう言われたのじゃないかね?」
「やだな。どうして知ってるの?」
 マリカがやって来ることを知っているのなら、当然、パピロが来ることを知っていても不思
議はないだろう。どうやらパピロの誕生日が刻まれているかどうかはともかく、彼がここを訪
れることはトーテム・ポールに刻まれていたようだ。

(つづく)




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